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現在の小児科医とは?オンライン診療や執筆業、多様化した仕事! ~白井沙良子先生

はじめまして!小児科医の白井です。私は2014年に慶應義塾大学医学部を卒業し、総合病院で研修後、2019年に日本小児科学会の専門医を取得。大学卒業後は医局には所属せず、フリーランスの医師として、東京都内のクリニックで勤務しています。またオンライン医療相談の運営にも従事しています。さらに医療記事の執筆や、保育園の園医など、一口に「小児科医」といっても様々な業務に携わらせていただいています。子どもは2人。精神科医の夫と子育てしながら、フルタイムで目まぐるしくも充実した日々です。今回は自己紹介もかねて、私のお仕事内容を紹介させていただきたいと思います。

お仕事 その1.クリニック勤務(小児科外来)

まず「小児科医」というと、おそらく皆さんがイメージする業務内容だと思います。

「症状のあるお子さんが、親御さんと一緒にクリニックに来院する。そのお子さんを診察し、お薬を処方する。」というものですね。

(1)「お子さんが治るまで」の時間を、親御さんが少しでも安心して過ごせるように

いわゆる「町のお医者さん」や「クリニック」だと、小児科はほとんどが「鼻水、咳、発熱」といった「風邪症状」です。「なんだ、小児科って風邪ばっかり診てるのか」と思われるかもしれませんが、たかが風邪、されど風邪。風邪ってとっても奥深いんですよ。

そもそも「本当に風邪かどうか」は後出しジャンケンのように、完全に治った後でないとわかりません。たくさんの風邪のお子さんの中には「川崎病」「腸重積」「IgA血管炎」「免疫性血小板減少性紫斑病」「腎盂腎炎」といった疾患が隠れています。それらを見逃さないように、常に気を張り詰めて仕事をしています。

また風邪薬のエビデンスって、どれほどあるか知っていますか?医学部の授業などでも「この薬にどんなエビデンスがあるか」はほとんど習わないですよね。たとえば小児の咳止めで代表的な「アスベリン」は実は咳を止めるという効果が乏しいことや、咳止めの薬と同じくらい、ハチミツに効果がある(抗菌効果、抗炎症効果)があることなど、風邪一つとっても興味深い研究がたくさんあります。「子どもの風邪」だけで、立派な一冊の本が成り立つくらいです。(子どものカゼのトリセツ)

さらに、お子さんの風邪は時間が経てば、ほとんどは重症化せずに治ることがほとんどです。私も駆け出しの頃は「なんで風邪くらいで、親御さんはこんなに心配するんだろう?」「なんで発熱して1時間しか経っていないのに、深夜の救急外来に駆け込んでくるんだろう?」と、親御さんの気持ちに心から寄り添えていなかったように思います。でも2人の子どもの母となった今は、親御さんの気持ちが手に取るようにわかるときがあります。いつか治る、きっと大丈夫と思っていても、命がけで産んだ我が子が苦しんでいるのを見ると、平常心ではいられないのが、親の性(さが)なのです。

研修医時代も「小児科は、親に寄り添う仕事だよ」と何度も言われました。薬だけではなく、お子さんが治るまでの間、少しでも心穏やかに過ごせるような情報や言葉も、一緒に処方しようと常に心がけています。

(2)「様子を見ましょう」では終わらせない「健診」を目指して

症状のあるお子さんだけではなく、小児科には健康なお子さんもいらっしゃいます。乳幼児健診や、予防接種(ワクチン)ですね。

新生児、生後3〜4ヶ月、6〜7ヶ月、9〜10ヶ月、1歳、1歳半、3歳、5歳…とお子さんが受ける健診はたくさんあります。住んでいる地域の保健所などで、集団で受ける健診もありますが、各自でクリニックに受診して受ける「個別健診」も多いです。

実は後期研修まもない頃、私は乳幼児健診に苦手意識がありました。医学部の授業でも、また初期研修を修了した総合病院でも、扱うのは病気のことばかり。乳幼児健診の経験がほとんどないまま、小児科研修が始まったからです。健診でチェックすべき項目は山のようにあり、「目の前のお子さんが、本当に健康かどうか」は実は判断がかなり難しいのです。書籍を何度も読んだり、「毎回この流れで診察する」というマイスタイルを確立していくと、苦手意識は少なくなっていきました。そして何より、(幸いにも心身ともに健康な子どもたちだったので)子育てを経験したことで、健診スキルがグッと上がりました。

健診でも、保護者の相談はつきません。「離乳食を食べてくれない」「おすわりしたときの、足の左右差が気になる」「1歳半なのに言葉を喋らない」… 5〜10分という枠では全て拾いきれないくらい、たくさんのご質問をいただきます。中には「きっと数ヶ月後には、お子さんも成長して、親御さんも気にならなくなるんだろうな」ということもたくさん。

でもそんなときこそ「安心できる情報・言葉」の処方です。子どもの集中力は数分しかないので、離乳食の時間にすぐ飽きたり、落としたりすることは正常な発達であること。離乳食の量や回数はあくまで目安なので個人差が大きく、要は成長曲線に沿って大きくなっていれば問題ないこと。これらを1つ1つ説明していきます。根拠のない「大丈夫ですよ」「様子を見ましょう」では、親御さんは安心しません。心穏やかにお子さんの発達を見守れるような、医学的な根拠をプレゼントするのが、私たち小児科医の仕事です

なお上記はあくまで「クリニック」でのお話しです。私も数年前まで勤務していた「総合病院」となると、より重症で稀な疾患も多く診ますし、入院患者さんの管理、当直業務など、仕事の内容がガラッと変わります。このあたりも、機会があれば追ってご紹介していければと思います。

お仕事 その2.オンライン医療相談

さて上記のクリニックのお仕事は、私は週に2日間させていただいています。残りの時間は「オンライン医療相談」の運営に従事しています(小児科オンライン・産婦人科オンライン)

(1)オンライン「診療」とオンライン「医療相談」は違う

コロナ禍で「オンライン診療」が一気に広まりましたよね。小児科でも落ち着いた症状のお子さんや、慢性疾患のお子さん(喘息や夜尿症の定期的な薬など)は、オンラインで処方することがあります。

ただしこれらはオンライン「診療」であって、オンライン「医療相談」はまた一味違います。オンライン「医療相談」は、実際に診察したり処方したりできないのですが、「医師としての助言・受診勧奨」などがオンライン上でできます。

(2)オンライン「医療相談」で聞かれるのは「(ほぼ)健康なお子さんのこと」

小児科で多いのは「育児相談」。クリニックでいうと「乳幼児健診」のときに聞かれる内容が多いです。お子さんの発達で気になること(言葉が遅い、など)。離乳食のこと(食べてくれない、食べ散らかす、偏食、など)。睡眠のこと(夜泣き、睡眠時間が足りているか心配、など)。どれも医学部ではあまり時間を割かないことなので、私もここ数年、必死に勉強しながら対応しています。

オンライン医療相談の仕事をしていると、「外来では医師が忙しそうで聞けなかったことを、オンラインでゆっくり聞けるので助かる」「一回受診したはいいけど、まだ症状が続いているときに、またいつ受診したらいいのか聞ける場所が無くて困っていた」など、外来業務をやっているだけでは見えなかった、親御さんたちの不安や悩みが見えてきます。クリニックや病院では、このような育児相談にのっても処方が出せるわけではない・時間がかかることが多いので、売上に繋がらないという理由から、あまり積極的に扱う医療機関がありません。でも親御さんの切なる悩みを見ていると「私たち医師が、医療機関の外に出てこそ、解決できる悩みが多くある」ことに気付かされます。

また他の医師がどんな回答や対応をしているのか、患者さんからの評価が高い先生は、どんなことに気をつけて対応しているのか、といった、相談対応の質についてもデータを集めて研究しています。さらに小児科・産婦人科オンラインでは「小児科医」のほかに「産婦人科医」「助産師」も同じコミュニティで働いていますので、職種を超えた、医療情報のシェアなどもオンラインででき、私も非常に勉強になる毎日です。

さらにオンライン医療相談をきっかけに、親御さんのメンタルヘルス不調や産後うつ、またお子さんへの虐待事例が発覚することがあります。原則として、親御さんに許可を得たうえでですが、お住いの自治体に情報を共有し、対面でのサポート(地元の保健師さんとの面談、定期的な家庭訪問をしてもらうなど)につなげることも多くあります。

なお小児科オンライン・産婦人科オンラインのオンライン医療相談を提供することで、産後うつのリスクを減少できることも、研究で示されています。このように小児科オンライン・産婦人科オンラインでは、学術発表も積極的に行っており、私も定期的に、学会で発表をさせていただいています。結婚・出産のタイミングもあり、医局に所属せず、フリーランスとして働いてきたのですが、ふと「大学院で研究などをしっかりやっておくほうが良かったのか」と悩むこともありました。でもアカデミックな学びは、大学院だけでしかできない、ということはありません。医療機関の外にいながら、こうしてオンライン医療相談の最新の知見を学術発表できることは、私にとって新たなキャリア、そして生きがいになっています。

お仕事 その3.執筆業、園医…小児科医の仕事は∞(無限大)!

上記のクリニック診療、オンライン医療相談の運営に加えて、執筆のお仕事もしています。具体的には、毎日新聞医療プレミアたまひよオンラインで、親御さんがネットで読める記事を執筆させていただいています。

めまぐるしい外来では、1人のお子さん・保護者につき、5分もかけられれば良いほう。保護者の方たちが、「外来では聞けないけど、本当は気になっていること」を少なからず抱えていらっしゃることを、オンライン医療相談を通じて知っている身としては、非常にはがゆいです。

一方でオンラインの記事は、親御さんが子育ての合間に、ご自分のペースで読むことができます。SNSをはじめ、情報が氾濫する中で「ネットサーフィンをしていたら、余計に自分の子どもの発達が気になった・混乱してきた」という声も多く聞きます。玉石混交のネット情報をあさるくらいなら、この1記事を読んで安心して!という思いをこめて、いつも執筆させていただきます。

また保育園の園医も、小児科医の大事なお仕事の一つです。通常は、保育園の近くにある医療機関の医師が受け持つことが多いのですが、実は小児科の経験があまり無い、内科の医師が務めていることもあります。もちろん内科の医師でもしっかりと小児科の研修を積まれている先生もいるのですが、保育園こそ、まさに育児相談や、普段の子どもとの関わりを聞かれる場です。なかなか小児科医でないと対応が難しいだろうなという質問も、多くいただきます。0歳児健診は毎月1回必ず診察をしに行きますから、お子さんの毎月の成長に驚き、喜びながらさせていただく、充実したお仕事です。

いかがでしょうか。皆さんのイメージする「小児科医」とは、少し違うイメージだったかもしれません。AIが台頭して、これから数年後は、「医師」といっても、もっと多種多様なキャリアが拓けると思います。自分にしかできない、オリジナリティあふれるキャリアを積んでいきましょう!

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