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【第4回】医師としての仕事に活かせている自分の強みや経験とは~白井沙良子先生

白井沙良子先生

医師家系でもなかった私が、お花屋さんや弁護士、数学の先生などグルグル思い描きながら、最終的に医学部に進んだ話を書いてきました。

何が何でも医者に!と思ってなったわけではないですが、高校や大学生活を振り返ると、「あのときの自分の強みや経験が、今の医師の仕事に活かせているな」と思うことがあります。

学生生活では「今やってることって、なんの役に立つんだろう」とふと思う時があると思いますが、そんなときの、ちょっとした支えになれたら嬉しいです。

1.「人に教える(ようで、実は自分が一番勉強になっている)」という経験

毎日勉強を頑張っている皆さんなら、お友だちに「ねぇ、ここわかんないんだけど、教えて?」と言われることもあるでしょう。

私も中学生・高校生のときは、テスト前になると「これ、問題集の解説見たけど全然わからなかったの!教えて〜!」とよく頼まれていました。

私は友だちに頼りにされるのは嬉しかったし、教えるのも好きでした。「どこまでできたの?どこからわからなかったの?」と、その人なりのつまずきポイントを探るのも楽しかったし、「ああわかった!そういうことね!」と友だちが喜ぶ顔を見るのも嬉しかった。

一時期、夢見ていた数学の先生にはなりませんでしたが、大学生になってから、塾講師や家庭教師のアルバイトをしたときに、またこの経験とワクワクを活かすことができました。

そして何より、医師になって数年経つと、「後輩医師の指導」を任されます。自分が正しい医学知識を身に着けて、アップデートして、さらにそれを後輩にも伝えていかないと、患者さんに適切な医療を施せないんです。

「自分だって苦労して勉強して理解してるのに、友だちに簡単に教えちゃうのは、ちょっとな〜ずるいな〜」と思う人もいるかもしれません。

ただし実は「人に教えている」人が、一番特をしているんです。脳科学的には、教える、つまりアウトプットの行為をすることで、知識や記憶が定着します。教えることで、自分がどんどん賢くなれると思うと、ちょっと良い気分ですよね。「教える」って、医者になっても役立つ、一生もののスキルなんです。

2.「とりあえずやってみるスピリッツ」「初対面の人と一緒に仕事をするスキル」

上記の塾講師・家庭教師は、医学生の鉄板アルバイトですが、それ以外にも様々なアルバイトを経験しました。駅でティッシュやチラシを配ったり、駅の改札の前で何人通るかカチカチしながらカウントしたり、マツ◯ヨの前で青汁の試飲会を取り仕切ったり、マンションのモデルルームで清掃や接客の業務を行ったり…

その時は必要なお金を稼ぎたかったから、というモチベーションでしたが、振り返ると「とりあえずやってみるスピリッツ」「初対面の人と一緒に仕事をするスキル」が磨かれた経験でした。

「えー、こんなバイトやったことないけど、できるかな…」「どんな人が来てるバイトなんだろう、ちょっとこわいな…」と思いつつ、まぁなんとかなるか!で飛び込んでみると、意外となんとかなる。こういう経験を学生のうちに積んだことで、医師・社会人になってからもチャレンジ精神がキープできている気がします。

私が今、医局や、いわゆる医師の仕事といった枠にとらわれずに様々なお仕事をさせていただいているのは、このスピリッツとスキルあってこそだと感じています。

また研修時代は、様々な科や病棟をローテーションします。数週間や数ヶ月ごとに違う環境で、異なる人たちと仕事をする。思ったより目まぐるしく、適応力が求められます。医局に入ったあとも、数ヶ月や数年ごとに違う病院に配属が決まる、ということもあります。

そして何より大学生時代は、医学生以外の人と触れ合う機会が意外とないので、様々なバックグラウンドの人の話を聞くのも面白かったです。チラシ配りのときに、やたらと声がよく響く男性がいるなと思ってたら「僕は普段は、舞台俳優をやってるんだ」とのこと。人を惹きつける声だし、自然な笑顔だし、その人のチラシがどんどん無くなっていくのを見て、すごいなぁと感嘆したこともありました。

医師は、他の医療職の方々や患者さんなど、自分とは全く生まれ育った背景が異なる人に対しても、愛情と共感に基づいて、適切な医療を提供する仕事です。学生のうちに、あえて医師や医療とは全く関係ない人との交流を大切にしておくと良いですよ。

3.「気持ちの良い”引き継ぎ”をする」という経験

私は中高一貫校に通っていたのですが、6年間ずっと文化祭実行委員会を務めていました。様々な業務があるのですが、その中でも「次の年の人たちに、引き継ぎをする」という作業が、実は最も今の医師の仕事に活きています。

研修中のローテーションや、医局人事での異動、家族都合での転職など、医師として仕事をしていると、環境が変わることはたびたびあります。そんなときに、患者さんの情報を、次に来る医師に適切に引き継ぐことが大切です。

夜間当直や、土日祝日の日直にむけて、引き継ぎをすることも多くあります(最近は、1名の患者さんに対して1名のみの主治医対応、ではなく、複数の医師でチームとして1名の患者さんを診ることで、土日祝日は当番の先生に対応してもらうという病院も増えています)。

また私も経験した、出産に伴う産前産後の休みに入る前も、とにかく丁寧な引き継ぎを心がけました。私のいない数カ月間、同期や後輩、先輩の医師が業務を担ってくれているのですから、ありったけの感謝の気持ちを込めて引き継いでいました。

患者さんの医学的な情報はもちろんですが、どんな性格やキャラクターなのか、家族は誰がキーパーソンなのかなど、社会的な背景も引き継ぐことで、患者さんに対して切れ目のない適切な医療を施すことができます。患者さんにとっても医療者にとっても、気持ちの良い引き継ぎは、意外と難しいものです。

皆さんも部活やバイトなどで、自分がやってきた仕事を誰かに引き継ぐことがあると思います。どうやったら確実に、かつお互いに気持ち良い引き継ぎができるかトライしておくと、医師になってからも確実に役立つスキルになりますよ。

4.「感謝されると嬉しいな」という経験

…と、色々と書きましたが、一番は「人に感謝される・人の役に立つって嬉しいな」という気持ちが、医師として仕事を続ける原動力になっていると思います

人に教えることも、アルバイトをすることも、丁寧な引き継ぎをすることも、結局は誰かの役に立っていたり、誰かに感謝されたりするものです。人間として当たり前の感情なのかもしれませんが、学生時代からずっと根底にあるのは、「ありがとう、って言われると嬉しい」という素朴な気持ちです。

ありがとうって直接言われなくても、心が温まることもありますよね。

大学生の時、予備校の前でチラシを配るバイトをしていたら、突然雪が降ってきて、私は雪まみれになりました。そうしたら、もうすぐ試験が始まる時間なのに、一人の高校生の子が温かい午後の紅◯を買ってきて、笑顔で無言で私に渡して、さっと戻っていったんです。

小児科医になってからも、ずっと診ていたお子さんから、無言でそっと手紙や折り紙をいただいたり、退院する日になって初めて笑顔を見せてくれたりすると、なんともいえない温かい気持ちになります。

みなさんがどんな学生生活を送っていようと、どんな大学や学部に進もうと、どんな仕事に進もうと、必ず自分が頑張ったことは、いつか形を変えて役に立つときが来ます。そして、本当に将来のみんなを支えてくれるのは、特別なスキルや経験というよりも、ふとした日常で、心があったかくなる瞬間なんだろうと思います。

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山口 じろう
医学部受験コンサルティング、英語講師。大学入学と同時に予備校講師となり、現在に至る。 医系受験に出る医学論文・医学雑誌などの時事的英文を毎年分析し、頻出メディカル系語彙を集めて「メディ単1000」(自費出版)を執筆、医学部・薬学部・獣医・看護志望の合格者に愛用されている。 医学部・難関大受験予備校『一会塾(いちえじゅく)』(川崎市 武蔵小杉)と『一会塾MEDICAL』(渋谷区 恵比寿)を主催。医学部を身近に感じさせる『医大生を囲む会』、外科専門病院で行う『メディカルディベイト』、面接対策を年間を通じて実施する『コミュニケーション個別指導』、プロのメイクアップアーティストを呼んで行う「身だしなみ講座」などをカリキュラム化。慶應大学卒。