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【第3回】医学部時代、想像することもできなかった生活とは ~白井沙良子先生

白井沙良子先生

小児科医の白井です!

突然ですが「医学生時代に、今の自分を想像できていたか」と聞かれると、10%も想像できていなかったように思います。

次に、プライベートのこと。学生時代から「キャリアセミナー」のようなものに参加し、先輩ママさん女医から「子どもが産まれると、両立大変だよ!」とか「夫も医師だけど、なんとか協力しあって頑張ってるよ!」とか、いろんな話を聞いてきました。

でも、いざ自分がママさん女医になってみると、誰の話にも当てはまらない。ロールモデルがいて、それを目指して進んできた…というよりは、とりあえず必死に毎日生きていたら、今ここという感じです(笑)。

とはいえ、プライベートも含めた話を先輩ドクターから聞ける機会は、意外とないですよね。「へえ、こんなパターンもあるんだ」くらいの軽いテンションで、お気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

何曜日なのか、感覚がなくなる初期研修医時代

出身の大学や医局にこだわりがなかった私は、大学の関連病院ではない、市中の総合病院で初期研修をさせていただきました。

「病院。山。海。以上。」という感じの過疎地で、忙しい科では2日に1回当直…完全に曜日感覚を失いました(笑)。ただし「初期研修医であっても、責任を持って患者さんを担当させていただける病院」「背中を見て学べ!ではなく、文献やエビデンスベースで勉強できる環境があり、それを臨床に活かせる病院」で初期研修をしたいと思っていた私にとっては、これ以上ない環境でした。

こんな状況では、病院以外の人と新しく知り合える機会があるはずもなく、たまたま外勤先の病院で出会った上級医が、今の夫です。

ちなみに同期同士で結婚したドクターもいましたし、学生時代からお付き合いしていた人と結婚した人もいます。初期研修医が終わる頃は、ドクターの結婚第一波です。

気づいたら一人目が生まれていた、後期研修医時代

初期研修が終わると、大学の医局に所属して後期研修を行うドクターもいますが、私は医局に所属することは最初から考えていませんでした。妊娠や出産、配偶者の留学や開業などをきっかけに医局を離れていく先輩女医さんを学生時代に見ていて「それなら最初から入らなくていいかも」と漠然と感じていました(※現在は、医局に所属したまま、様々なライフイベントを経験するパターンも増えてきていると思います)。

そして小児科の中でも、希少疾患や重篤な病気というよりは、一般的な感染症や、乳幼児健診など、より多くの家庭や子どもに広く関わる業務をしたいと考えていました。よって、あえて子ども病院や大学病院の小児科ではなく、市中の総合病院の小児科を選びました。

この後期研修中に、一人目の子どもを妊娠・出産しています。自分自身が出産や育児を経験することも、小児科では必ず役立つから…と思ってはいたものの、ひどいつわりもあり、周りの先生方には勤務の調整など様々ご配慮いただきました。夜間の一人当直は安全上の観点から免除いただきましたが、そのかわり日曜日や祝日の日直に入らせていただき、専門医試験にも十分な症例を積むことができました。

妊娠出産の経過も、人それぞれ。切迫早産などで全く勤務できないまま出産を迎えるケースもありますし、当直中に陣痛がきて一大事、といったケースも聞いたことがあります。育児と両立しながらフルタイムで働く女性医師が増えたり、男性医師の育休も少しずつ広まったりする流れは素敵だなと思う一方で、やはり妊娠中の勤務という点では、まだまだ課題があると感じます。

そろそろ限界かもしれない、と気づいた二人目出産後

一人目出産後は、生後2ヶ月で復帰し、勤務先に併設されている保育園に預けながら、産前と同じ条件で勤務を再開しました。夜間当直もあり、早々に母乳育児を諦めました。このあたりもたぶん個人差があって、母乳育児で育てたいという思いが強い方は、産後の夜間当直も葛藤を感じると思います。

そして後期研修の終了と同時に、二人目を出産しました。数ヶ月後に控えた専門医試験にむけて勉強しつつ、0歳と2歳を育てて…の日々は、正直あまり記憶がありません(笑)。初期研修医の当直はどんなに多くても2日に1回でしたが、乳児を育てる母親は、毎日が当直です。専門医試験の知識も、脳みそからザルのように流れていくような感覚でした。

そしてこの頃から「このまま、また夜間当直ありのフルタイム勤務に戻って、本当にやっていけるんだろうか…」と考え始めました。実際に復帰した後は、私と夫の夜間当直が重複しないような調整や、2か所の保育園の送迎(長男は自宅近くの認可園でしたが、次男は年度途中での復帰なので同じ園に入れず、別の保育園に預けていました)などなどで、家族全員が本当に必死の毎日でした。

なんとかパスして小児科専門医になったものの、そろそろキャリアを一時的に緩めた方が良いかも…と模索し始めます。

クリニック×自宅勤務のハイブリッドで、小学校入学に備える

二人目出産後から、総合病院に復帰するまでの間に、自宅でもできる仕事ってないのかな…?とスマホで検索しはじめたことが、今の仕事につながっています。ちょうどオンラインでの医療相談やオンライン診療が徐々に台頭してきた頃で、産休中も小児科医や母親としての知見を活かして社会に貢献できることは、とても励みになりました

産休から復帰して7ヶ月後、当直のないクリニックと、オンライン医療相談とのハイブリッドの勤務体制に変更しました。そして2020年、COVID-19の流行に伴い、オンラインでの医療相談や診療がますます加速し広まったことも功を奏して、今もこのような勤務を続けています。

あっという間に子どもも大きくなり、上の子は小学生に。保育園と違って、親が見なければいけない宿題も毎日ある小学校生活、また長い長い夏休みを目の当たりにして「二人目出産後に、キャリアを転向して良かったな」と実感しています。

医師といっても、これからは、より多種多様な働き方が出てくるでしょう。仕事とプライベートとを両立できるかどうかだけで、職業や専門科目を決めつける必要はありません。「周りと同じ」にこだわらず、ライフイベントや、その時の自分の価値観に合わせて、柔軟に揺れ動くキャリアを描ければ、それがその人なりの両立になるのだと思います。

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山口 じろう
医学部受験コンサルティング、英語講師。大学入学と同時に予備校講師となり、現在に至る。 医系受験に出る医学論文・医学雑誌などの時事的英文を毎年分析し、頻出メディカル系語彙を集めて「メディ単1000」(自費出版)を執筆、医学部・薬学部・獣医・看護志望の合格者に愛用されている。 医学部・難関大受験予備校『一会塾(いちえじゅく)』(川崎市 武蔵小杉)と『一会塾MEDICAL』(渋谷区 恵比寿)を主催。医学部を身近に感じさせる『医大生を囲む会』、外科専門病院で行う『メディカルディベイト』、面接対策を年間を通じて実施する『コミュニケーション個別指導』、プロのメイクアップアーティストを呼んで行う「身だしなみ講座」などをカリキュラム化。慶應大学卒。